冠留学生奨学金制度の参加にあたって

 

 

 

冠留学生奨学金制度の参加にあたって
代表取締役社長  金谷 清道
 

カナセ工業株式会社は2002年度(平成14年度)から冠留学奨学金制度に参加するはこびとなった。 当社は1919年(大正8年)に貝ボタン・メーカーとして和歌山県で創業し、第二次大戦後、アクリル樹脂板の製造・販売を行う典型的な地方の中小企業である。 企業規模も小さく、給与水準も決して高くない当社が、冠留学奨学金制度に資金提供を決意するにあたって、正直言って社内でも強い反対意見があった。 「留学生に奨学金を提供する前に、社員の子弟を対象とした奨学金制度を設けるべきだ。」、「留学生に奨学金を提供できる資金的余裕があるならば、まず社員に対する給与の原資に充てるべきだ。」、あるいは、「現在の不況が長期化する見通しの中、例え僅かな金額でも余分な支出は抑制すべきだ。」等の意見である。 そうした至極真っ当な反対意見が存在したのもかかわらず、社長として冠留学奨学金制度に資金提供を決断した理由は3点ある。 第一に私自身の留学体験、第二に企業としての国際社会とのつながり、そして第三に現在の公的資金(税金)の非効率的な運用に対する不満である。

 まず冠留学生奨学金制度参加の第一の理由として自分自身の留学体験があげられる。 日本で大学卒業後、1980年(昭和55年)から1986年(昭和61年)にかけて、アメリカの大学院で国際政治学を専攻した。 大学院の学生としては学問的能力に著しく欠け、六年もの歳月を費やして結局博士号の学位も取得できなっかた劣等生ではあったが、それでもその後の自分の人生にとって大切なことを三つ入れることができた。 第一に、生涯の伴侶であるワイフちと留学先の学校で知り合ったことである。 ワイフはフィリピンで生まれ育ち、その後アメリカに移住した米国籍中国人であるが、それこそ家族や友人とも離れ、太平洋を超えた遠い極東の島国である日本に、私だけを頼りに来日してくれた。 そのワイフをどこまで大切にしているかどうかは大きな疑問だが、少なくても二人の娘にも恵まれ、平和な家庭を築いている。 第二に、学位取得には失敗したが、科学とは再現性のある方程式を見つけることであり、従属変数と独立変数を確定させ、それぞれの独立変数にかかる係数を明らかにする作業に他ならないということを学んだ。 人種・宗教・文化の壁を越えて他人を納得させる力をもつものは科学であり、合理的な思考であるということを徹底的に叩き込まれた。 第三に、学校という非常に限られた社会の中であったにもかかわらず、生涯をともに生きる貴重な仲間達と知り合えたことである。 当時、同じ寮やアパートで生活を共にした友達達が、世界中の色々な場所で、様々な職業に就いているが、今でもそうした仲間は私のかけがえのない財産であり、折に触れ相互の近況を交換するだけでも心の支えとなっている。 こうした自分の留学体験に基づき、例え僅かでも留学生の一助になる制度に参加しようと思った次第である。

 冠留学生奨学金制度参加の第二の理由は、地方の中小企業であっても、その事業活動は平和な国際社会の存在を抜きにしては語れないことである。 そもそも貝ボタンの製造は、戦前・戦後を通じて日本の繊維産業を軌を一にし、外貨を稼ぐ花形輸出産業であった。 また、貝ボタン以外でもエクアドルからのアイボリーナットの購入等、円滑な国際的物流の確保なくして成立し得ない産業である。 輸入が輸出を遥かに凌駕する現在でも、その原則は全く同じことで、当社もスペインや中国に生産拠点を展開しているが、そうした経済活動も平和な国際秩序を前提とすることは言を待たない。 留学生への支援が、平和な国際秩序形成にどれほど直接的な貢献ができるかはわからないが、少なくても人種・宗教・文化の差は差として認識し、相互の立場を尊重する視点に立てる留学生が一人でも増えることを期待したい。 当社も法的には日本企業であるが、国家をいう枠組みが崩壊していく過程の中で、単に日本という一国家からの視点で事業展開を行うことは考えられない。 国家という極めて人為的な境界線の範囲にこだわることなく、また「日本人」という狭隘な視点に立つことなく、グローバルな視点からメーカーとして地球社会に貢献することが当社の責務だと確信している。

 冠留学生奨学金制度参加の第三の理由は、現在の日本の公的資金(税金)の極めて非効率的な運用に対する法人としての反抗の意思表示である。 当社は従来極めて納税意識が高く、「納税」の責務を社是にも掲げる法人である。 しかしながら、現行の法人に対する実効税率は、江戸時代に「四公六民」や「五公五民」と言われた武士による農民への厳しい搾取に等しい税率である。 小泉内閣の「構造改革」というスローガンが、その内容はともかくとして高い支持率を獲得し、一般国民の殆どが税金は「高い」という感覚をもち、脱税まではしなくとも節税に精を出すのは、支払った税金に見合った行政サービスを受けていないという認識が一般化しているからに他ならない。 5.0%を超える失業率の中、国民に「痛み」を辛抱することを首相が懇請しているにもかかわらず、依然として1000人を越す衆参両国会議員定数や議員歳費の削減が、リーダーとしての責任を有する政治家自らの口から出てこないのは極めて異常な事態である。 そこで、当社として少なくとも冠留学生奨学金制度に参加し、資金提供の受給者の顔が直接見える状態の方が、当社の納税資金が法人税・所得税・固定資産税といったかたちで一般財源に組み込まれる状態よりも望ましいと判断した次第である。 即ち、当社として従来の「金は出しても口は出さない。」という従順な納税者から、「口も出す。」という立場」への納税方針転換の意思表示である。

 以上三点がカナセ工業株式会社として冠留学生奨学金制度に参加する理由であり、今後も地道に「継続こそ力なり。」を信じて、仏に魂を入れられるよう努力していきたい。

 

 


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